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道具とデザイン 2011.4.24

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(公財)ふくい産業支援センター 産業デザインプロデュース事業で彫刻師の鈴木美央さんと、家具職人の前田智之さんの工房、マエダ木工を訪問しました。木を使う仕事をなさっているお二人ですが、彫刻師と家具職人では使う道具も作られるプロダクトも異なり興味が沸きます。

写真001は、鈴木さんが使用しているノミの一部。200本ほどを使い分けているとのこと。欄間などの彫刻が本業ですが、写真003や004のような作品も制作しています。それら全てノミだけで制作されている。鈴木さんの作品からは、ノミが三次元空間を自在に動き回っている様が伝わってきます。

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前田さんは、昇降盤やパネルソーなどの木工機械類の他に、デザインツールとしてMacを使っていらっしゃいました。手加工も駆使して写真008のような複雑な継ぎ手(捻り継ぎ)を使ったスツールなども制作なさっていますが、道具はXYZ軸に沿って三次元空間を直線的に移動しているように思います。

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鈴木さん、前田さん、それぞれの道具と作品を拝見していると、「道具がデザインを決めている」のか「デザインが道具を決めている」のかという疑問を持ちます。おそらく両方なのだと思います。私には200本の彫刻刀をどのように使い分けているのか皆目わかりませんが、求めるデザインを制作するためにそれらは作られたと考えられます。しかし同時に、増えた道具は新たなデザインを引き出すきっかけを作っていることもあるでしょうし、逆にデザインの幅を制限してしまうこともあると思います。

デザイナーにとっても同じ事が言えると考えています。今では3DCADでモデリングし、3Dプリンターで造形すれば、バーチャル上の立体物がリアルに再現できます。自由度が高く素晴らしい道具です。しかしアバウトな造形はしづらくなりました。昔は図面上に「この角は柔らかく自然な感じで丸めてください」などといった、木型や金型職人さんの感性に頼る言葉を書き込むこともありました。そして現場で試作を眺め手で撫でつつ作り手と感性を合わせながら仕上げていく。感性造形を三次元測定器によってコンピュータに取り込んでデータ化することも自動車メーカーなどでは以前から行っていますが、それでもデジタルな匂いが造形に感じられるように思います。

大分前にタミヤの職人さんに、「昔のポルシェは、正確には左右対称ではなかったのではないか」という話を聞いた事があります。左右対称には見えるが正確には対象ではなかったということです。

「道具がデザインを決めている」「デザインが道具を決めている」そのどちらもあると思いますが、「デザインは人が決める」という意識を忘れないようにしなければというのが結論です。