SAAT DESIGN INC.2023-03-08chronofileに「Ancient Futures」を追加しました。

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折 紙 2011.5.1

001(Photo 001〜004:Masakazu Ikeda)

写真001〜004はTAZAWAアートフラワーの田沢信子さんが制作したペーパーフラワー「ホワイト・フラワー」です。「すみだものづくりコラボレーション」でデザインディレクションしました。ディレクションのポイントは「白い紙だけで作る」こと。田沢さんの持ち味の花のカタチで勝負するためです。
田沢さんの花のデザインには、スケッチも図面もありません。頭にある花のイメージと、手で変化する紙のカタチを照合することで作られています。頭にあるイメージに合わせて手を動かすこともあれば、無意識に手が作ったカタチを頭が評価することもあると思います。

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写真005は、元スタッフの宮田泰地くんが作った「箸袋のバラ」です。友人の結婚式で円卓で一緒になった人たちにも折り方を教えて花束にし、新郎新婦に贈ったとのこと。最初からバラの花を作ろうとしていたのではなく、箸袋を折っていて「おっ!これはバラになるかも!」という気付きがあって、デザインを詰めていったのではないでしょうか。写真006、007も宮田くんのデザイン。母の日のプレゼントです。お母さんに靴をプレゼントしたい。けれども靴選びは本人がいなければできない。それでは何をプレゼントするかわかってしまう。お金をあげるというのも味気ない。そこで、お札で靴を折ることを思いついた。そして事務所の昼休み1時間で完成させてしまいました!
写真007は翌年の母の日のプレゼント。旅行に使ってもらいたいという思いを飛行機の形に託しています。五千円札でできたハイヒールと飛行機の折紙で注目すべきは、五千円札の文字や模様が、それぞれのデザインの効果的な位置に来るよう吟味されていることです。
宮田くんの折紙も、田沢さんと同様に、紙を折りながら考えるしかありません。頭と手の双方向通信が必須です。
結局、宮田くんのお母さんは、五千円札製のプロダクトを壊さず大事にしているようです。それは一万円が一万円以上の価値を得た瞬間でもあります。

005(Photo 005〜007:Taichi Miyata)

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写真008〜013は、ドイツを旅行した時、ホテルでチップを置くために作った折紙の動物たちです。お金を置くだけでは味気ないですから。
008〜010のサルやシカは小学生の時に折った記憶を辿って作ったもので、オリジナルではありません。011〜013は、オリジナルデザイン。ホテルの部屋にあったフリーペーパーで制作しています。
まず作りたい動物をイメージし、紙を折ったり伸ばしたりしながら、頭にある動物のイメージと照らし合わせながら作っています。「正方形の紙二枚を折るだけで作る」という条件を課しているため、意外と難しいのですが、海外で旅をしている時の夜はたっぷり時間があるので、リーズナブルなデザイン・スタディになります。
部屋に戻るとチップ以上のプレゼントが置いてあった事もあって、逆に申しわけなくなって翌朝はチップだけ置いたこともあります。会ってはいないが、同じ空間にいたはずの見えない相手とのコミュニケーションは、サンタクロースとの会話のようでワクワクします。

008(Photo 008〜013:Takashi Ashitomi)

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下の写真は、私が多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻の2年次で受け持っている「アイデア・ディベロップメント」という授業の中で行っている「折紙スカルプチャー」という課題の学生作品です。ポストカードサイズの紙を折って美しい立体を制作し、写真撮影した後、ポストカードをデザインするという、少しトリッキーな課題です。「デザインでは頭と手で考えることが大切」ということを理解してもらうためのプログラムです。折紙なら理屈なしに、その感覚を体験できます。
昨年は、90分授業の中で、作品制作、写真撮影、プレゼンテーションを試みました。30分以内で折紙スカルプチャーを制作。その後30分以内に校内の適当な場所で携帯電話のカメラで折紙スカルプチャーを撮影し、私にメールしてもらう。約60名の学生から次々と届く写真をKeynoteに入力しプレゼンテーションしました。
超短時間のデザインスタディーの割には、独創的な「折紙スカルプチャー」が多かったと思います。
というよりも、時間がなかったから独創的な作品が多く出たのかもしれません。
考えてから作っているのでは間に合わない。作りながら考える。頭と手が激しく双方向通信する。そうすると、既知のカタチに縛られず、独創的なカタチが生まれやすくなる。といったことなのではないかと思っています。

014(Products & Photos:Students of Department of Product Design, Tama Art University)

デザインは頭で考えたアイデアやイメージをカタチ(具体化)することです。しかしそれだけでは、既知の情報をベースにするしかありません。もちろん既知の情報の組み合わせ方次第で、独創的で新しいアイデアは生まれます。そのデザインプロセスの支配者は脳です。手は脳の家来です。「手が思うように動かない」「私は不器用」といった悩みは、全て脳の言う通りにならない手への不満だと思います。
しかし頭と手を同じタイムラインに乗せてデザインすると、脳支配のデザインとは異なるアイデアのスパークが起こると考えています。「不器用な私の手」が作るモノに脳が刺激され新しいアイデアを思いつくこともあるということです。不器用でなければ思いつかなかったアイデア。そういうアイデアは脳支配のデザインプロセスからは生まれません。折紙はそういうことを気付かせてくれる身近な思考ツールです。

「折り紙の科学国際会議」(The International meeting of Origami Science and Technology)という、イタリア、アメリカ、日本で不定期で開催されている学術系国際会議があります。1994年に滋賀県で開催された時に参加しました。生物学者、数理学者といった学者たちも折紙を研究材料にしていることが印象的でした。雪の結晶の生成パターンの分析を折紙で行ったり、花のつぼみや昆虫のさなぎの中でどのように花や羽が折り畳まれているかを折紙でモデル化したりしていました。彼らはコンピュータも駆使しており、折紙の深い拡がりを見たように思います。
折紙の科学的応用としては、三浦公亮のミウラ折りが有名ですが、三浦先生は講演の中で、くしゃくしゃに丸めた紙を広げて、そのしわを解析した結果、ミウラ折りを発見したと仰っていました。そのことからも、科学者が折り紙を利用している理由もおそらく短絡的な脳支配を回避するためかもしれません。何故なら、彼らはコンピュータも駆使して論理展開しますが、今のコンピュータは、脳の計画を効率良く実行する道具以上にはまだ進化していないからです。

箸袋や食べた後のお菓子の袋を、意味も無く丸めたり折ったりという経験は誰にでもあると思います。手が勝手に作ったオブジェクトが素晴らしい閃きを与えてくれるかもしれません。