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真岡木綿 2014.5.25

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栃木県の伝統産業振興プロジェクト「U」のメンバーでもある真岡木綿会館を訪ねました。真岡木綿は、1800年頃の江戸時代(文化・文政・天保の頃)には年間38万反を生産し、江戸の木綿問屋の木綿仕入高の約8割を占めていたが、開国後の輸入綿糸の流入で衰退し、第二次世界大戦後には生産もほとんど途絶えてしまったようです。現在の真岡木綿は、1986年に真岡商工会議所が中心になって設立した「真岡木綿保存振興会」によって復興されたものだそうです。
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真岡木綿会館では、県の伝統工芸士3名を含む約20名の技術者が、綿(わた)の栽培から収穫、糸紡ぎ、織にいたるまで、全て手作業で行っています。

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004:photo by Norihisa Seki

私のような素人目にはわかりませんが、手で紡がれた綿糸は、糸を紡いだ人の個性や技量を反映して不均一だそうです。真岡木綿の糸に味わい深い温かな風合いを感じるのはそのためなのかもしれません。

005:photo by Norihisa Seki

機織り機にセットされた糸(写真005)。全ての糸の端から端まで、人の手に触れ紡がれたことを想像すると感慨深い気持ちになります。

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整然と並ぶ機織り機(写真006)。マシンをグリッド状に並べ人が座って作業する光景は、現代のコンピュータルームを想起させます。コンピュータのルーツが機織り機を自動化させたジャガード織機にあることを考えると、機織り工房とコンピュータルームの類似性に興味がそそられます。

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コンピュータのルーツは、織物のパターン形成方法にあります。織物のパターンは経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を交錯させて作ります。これはコンピュータのビットマップでパターンを形成することと原理は同じ。写真007の下に見える方眼紙に描かれたパターンは、経糸を浮かせるか沈ませるかを示した意匠図です。経糸を浮かせるか沈ませるかという2値で表された意匠図は、0と1という2進法で表すことのできるコンピュータ・プログラムに相当すると言えるでしょう。

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織物の意匠図とコンピュータ・プログラムが同じと考えると、機織り作業は、人が直接マシン語(0と1で表現されたコンピュータ・プログラム)を見ながら立体化(3Dプリンティング)する作業と言い換えることもできそうです。しかし人は機械のように均質な作業を続けることはできませんから、微妙な不均質さが布地に個性を与えているのだと思います。

花井恵子さん

中山美枝子さん

鶴見純子さん

栃木県の伝統産業振興プロジェクト「U」に関わっている花井恵子さん、中山美枝子さん、鶴見純子さんのご指導を受けながら、糸紡ぎと機織りを体験しました。結果から言うと、何一つまともにできませんでした。
糸紡ぎは魔法のような作業です。左手で持った綿から独りでに糸が生まれてくる印象があります。ところが実際にやってみると、糸の太さは極端に太くなったり細くなったりするだけでなく、頻繁に切れてしまう。
機織りでは、交差する経糸の間を「投げ杼(なげひ)」を飛ばして緯糸をくぐらせるのですが、飛ばし過ぎたり、届かなかったりしてしまう。経糸を上下に動かすために、エレクトーンのペダルのように並んだ踏木も動かす必要があるのですが、頭と脚が連動しません。経糸を整え緯糸を打ち込む「筬柄(おさえ)」のトントンという軽快なリズムを奏でたいのですが、それどころではありませんでした。

009:photo by Norihisa Seki

010:photo by Norihisa Seki

糸紡ぎと機織り体験では何もできませんでしたが、一つだけわかったことがあります。それは機織りは楽器で音楽を奏でるようなものなのではないかということです。織物のパターンの意匠図が楽譜。脚と手を使い、軽快で優しい音を奏でながら織られる織物は「音楽を視覚化したプロダクト」なのではないでしょうか。

011:photo by Norihisa Seki

今年度の栃木の伝統産業振興プロジェクト「U」の商品開発のテーマは「華」です。真岡木綿のアイテムも全て華をモチーフにした柄を使用しています。真岡木綿会館の女性たちが奏でた音楽の賜物という視点で見て欲しいと思っています。