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とちぎの技 2011.4.15

001:益子焼( Photo 001〜005:Kan Matsuzaki)

002:日光下駄003:真岡木綿004:日光彫005:黒羽藍染

[DESIGN DIRECTION]に「とちぎの技」をアップしました。

2008年から取組んできた栃木県の「活かそう!”とちぎの技”事業の成果です。栃木県には益子焼、日光彫、日光下駄、真岡木綿、結城紬(2010年ユネスコ無形文化遺産に登録)、鹿沼組子などの伝統産業があります。しかし、他地域と同様に、優れた伝統工芸品であっても、売れない、後継者がいないなどの問題を抱えています。これらの問題を解決するために、栃木県の伝統的な技術や技法を活かし、現代のニーズに合った商品を作ることが当プロジェクトのテーマです。

プロデューサーとして招聘されたのは、私を含めて3名。木村ふみさんは、2000年の九州・沖縄サミットの際に首里城で行われた首相主催の夕食会でのテーブル装飾の企画制作をしたり、石川県をはじめ日本各地の伝統工芸品産業にも深く関わっている食環境プロデューサーです。瀧勝巳さんは、東京ミッドタウン「THE COVER NIPPON」を運営するメイド・イン・ジャパン・プロジェクト株式会社のプロデューサー。空間プロデューサーとして、全国各地の旅館など宿泊施設のプロデュースを手がけていらっしゃいます。お二人のモノを見る目はとても厳しい。どういったモノが今必要とされているのかを良くご存知です。私の役割は、プロダクトデザイナーとして、お二人のモノに対する考え方を十分理解し、作り手の方々に、より良いモノづくりをするためにはどうすれば良いかを具体的にアドバイスすることでした。クラフトマンや職人さんたちが自分で考えて制作した試作品に対して、極力、具体的なスケッチや図面、モデルは作成せず、デザインをブラッシュアップする方法を試作品を使って説明するのです。これはプロダクトデザイナーにはとても難しい作業です。自分で考えたデザインをスケッチや図面で示し作ってもらうほうがはるかに楽です。しかしそれをやってしまっては、本当の意味で、作り手さんたちの役に立たないと考えています。この考え方は、11年前に関わった富山県高岡市の HiHillプロジェクト以来変わっていません。何故なら、デザインは人から与えられるものと誤解されるからです。そういう認識では、いつまでもデザイナーに頼らなければなりません。
もちろん、デザインのお手本を見せるということも必要でしょう。しかし素晴らしいデザインのお手本は、身の回りに数多くあります。それを真似できないことに問題の本質があると思います。良いデザインは見た目ではわからない。見た目のカタチを真似するだけでは、それと同じデザインにはなりません。どこか違うものです。見えないところに良いデザインとなった本当の理由が隠されているからです。それはデザイナーや作り手の使う人への気遣いだったり、材料調達や製造方法の工夫だったり、色々です。

さて、モノが売れなくなると「おまけ」をつけたがる傾向があります。「何かが足りないから売れない」「では何か足そう」というのは、思考プロセスとして理解できます。飾りを付けたり、おまけ(安売り)したり努力することになります。飾りを否定しているわけではありません。飾りがそのモノにとって大切なことであれば、それは「おまけ」ではないからです。要はそのモノの本質とは何かを見極めるなければならいということです。

「とちぎの技」でデザインしたことは、そのモノの原点を作り手から学び、おまけなしにそのモノの本質を見せることです。無駄に装飾しているアイテムに関してはそれを取り除き、装飾が必要と思われるアイテムに関しては、それを最大限表現することに徹しました。伝統的な日光下駄の鼻緒は、昔ながらのシックな柄が多いのですが、もっと華やかでも良いのではないかというアドバイスをしています。結果的に無地の鼻緒よりも手間がかかりますが評判になっているようです。真岡木綿は元々は白い生地で卸して、その後別なところで色柄を付け売られていたものだということを知りました。そのため原点に戻り、「白だけで勝負」というアドバイスをしています。白色といっても織り目を変えるだけで雰囲気は変わります。白の奥行きを見せることによって、木綿の良さを引き出すことに注力しました。益子焼や日光彫りも同じです。益子焼には「伝統的」と言われている様々な色やパターンが施されていたりしますが、その色やパターンは、濱田庄司が沖縄の壷屋焼きからヒントを得て益子で活かしたという歴史があります。未来永劫守り抜く益子焼の伝統の本質ではありません。日光彫りの特徴は、引っ掻き刀による彫刻です。派手な彩色は、日光東照宮の色柄を意識しているようですが、日光のお土産品として販売する際は有効でも、日光以外で販売する時には派手な色合いを前面に出すよりも、素朴で繊細な彫刻の魅力を引き出すほうが、様々な使用シーンに適応できそうです。

このようなアドバイスのアイデアの源泉は、それぞれの制作現場にあります。制作現場に行くと、長い歴史の中で培われた知恵の蓄積が見られるからです。そこでは作り手の目線に立つことも大切です。理想ばかり言っていてもダメです。だからといって、挑戦がなくてもダメ。常に新しいことに挑戦し続けて来たテクノロジーの蓄積こそが、日本各地に共通する伝統そのものだと思うからです。また、自分自身がカタチを作れる者でなければ、本当の意味で作り手の信用は得られないと思っています。難しい挑戦であればあるほど、「お前は作れるのか?」という疑問が生じるのは想像できると思います。
最適なデザインを考えて、「ほらっ」と見せれば良いのですが、それだと前述のようにデザインは人が考えるものと誤解されますし、見せなければデザインができないと思われる。そこがとても難しいところだと思います。時間も掛かります。お互いのリスペクトが成立してはじめて、共同作業できるのです。
栃木の作り手たちの技術は確かです。またモチベーションも高く、プロジェクト2年目には、参加者が自主的に異業種共同体を結成し、一丸となって協力し合っています。この行政に頼らない、異業種が協力し合う組織と活動は、他に例がないと思います。

3年間の締めくくりは、3月11日に栃木県庁6階の会議室で開催されました。そう、大震災の日です。私が話している最中にそれは来ました。震度6強。生まれて初めて覚悟しました。益子では大きな被害も出ました。他の参加者たちも大変な思いをしているようです。それでも前向きに活動を続けているようです。3年間の締めくくりもきちんとできず終わってしましたが、逆に彼らはこの苦難をバネに飛躍するのではないかと期待しています。